畑から出てくる砂利は厄介者?
1.重機が作業する風景
この写真を見たら何か建物を建てるための基礎工事をしているのかと思うのではないでしょうか。
実は畑の砂利を採取しているのです。
湧別平野の西側を1級河川の湧別川が流れています。
湧別原野に屯田兵が入植し開拓される前は湧別川には堤防もないので、大雨が降る度に氾濫し上流から土砂や砂利を運んできました。
そのため、上流の山々の表土も運ばれてきて肥沃な土地でもあるのですが、砂利も同じように運ばれてきました。
このため、湧別川に近い畑は特に砂利が多くなり、湧別川から離れた畑ほど砂利が少なくなります。
南兵村地区でいうと、湧別平野の西側の南兵村三区は砂利の畑が多く含まれ、東側の南兵村二区の畑は砂利が少なくなります。
2. 日照りに泣かされた農家
この畑の状態と降水量が農家の収穫量や収入に影響します。
オホーツク海沿岸は日本で最も降水量の少ない地域と言われています。
作物の生育期に雨が降らず畑が乾燥してくると、砂利の多い畑は保水力が無いため真っ先に日照りの影響を受けます。
加えて砂利に太陽光が当たると砂利が熱せられて地温が上昇し、益々、地中の水分が蒸発し日照りによる作物の不作に拍車がかかります。
このため、砂利の多い畑を所有していた農家ほど日照りに泣かされる事になりました。
昭和30年代まで、機械も普及していなかったことから井戸を掘ってポンプで畑に潅水することが出来ず、このような状態が続きます。
前述したとおり、南兵村三区の農家の畑に砂利が多いことから、農家の収益にも大きく地域差ができたと思います。
湧別町は「かみゆうべつチューリップ公園」が有名ですが、高収益の換金作物としてのチューリップ球根の栽培が南兵村三区を中心に普及したのも、このような背景があったものと思われます。
3. 町の農業補助対策
この砂利の多い地域以外にも、町内には粘土地で排水が悪い土地などがあります。
戦後、これらの耕作条件の不利な土地は、客土や区画整理、潅漑、排水の整備などの土地改良事業が国や北海道が事業主体になり行われてきました。
旧上湧別町でも町の単独補助事業として「農業用井戸設置事業補助金」として日照りの時に畑に水を撒く為の井戸を掘るのに要した費用に補助金を出していました。
また、砂利の多い畑にりんごなどの果樹を得る際、壺穴を大きく掘って砂利混じりの土を取り除き肥沃な土に入れ替える費用の一部に補助する「兵村パイロット生産対策事業」なども行われました。
これらの補助事業も「国営上湧別地区畑地潅漑排水事業」で潅漑事業が整備され機械で畑に水を自動で撒くことが出来るようになったこと、また畑の表土の砂利を取ったり、客土などの土地改良事業により畑の整備がされてきたことから、町が実施したこれらの補助事業の役目は終わっています。
4.道路脇の砂利
畑の道路脇には今でも畑から取り除いた砂利が次々と置かれています。
土地改良事業では、畑の表面から深さ20~30センチ掘り起こしながら、ふるいにかけて砂利だけを取り除く機械を大型トラクターの後ろに付けて畑の砂利を取る事業もありました。
しかし、未だに畑から砂利が湧き出してきます。
「砂利が湧き出す」というのはおかしな表現かもしれませんが。
この地域の真冬はマイナス20℃まで下がります。
地中の凍結深度も80センチと言われています。
水分を含んだ土が凍結して地中で霜柱を作ると、地中の砂利も霜柱に押されて浮き上がります。
この押し上げられる高さが年間数ミリでも10年、20年、30年と経過すれば数センチ地表に近づくことになります。
近年、畑起こしの機械であるプラウの大型化やサブソイラによる心土破砕で益々土壌表面に近づいた砂利がこれらの機械に引っかけられて土壌表面に上がってきています。
農家にとっては取っても取っても出てくる砂利は、湧き出すという表現がぴったりなのかもしれません。
11月の農作業が終わり、雪がチラつく寒い時期に、農家の奥さんが畑に転がっている大きな石を所々拾い集めながら、トラクターのフロントバケットに入れているのを目にすることがあります。
大きな石は移植機や収穫機械を傷め機械の摩耗を早めて機械の寿命を短くしたり、修繕費が膨らむ原因にもなります。
この時期は収穫作業も終わり、暖房の効いた暖かい部屋でのんびり過ごしたいところでしょうが、どうしても気になるというか、経営の為には必要な作業なのでしょう。
4. 建設業と砂利
畑の砂利採取は肥沃な表土部分をバックホーに付けた砂利除去のふるい分けバケットですくい取り、ガチャガチャと何回か振って砂利を取り除きます。
この取り除いた表土部分はブルトーザーで1箇所に集めてうず高く積み上げられ、除けて起きます。
表土が除かれた場所は掘削して砂利を運び出し、処理場で砂利を大きさ毎に分けたり、大きい砂利は破砕して利用します。
砂利を採取した場所には、元の高さにもどすため、山から取った砕石で埋め戻します。
これを行う業者は自社で山を持っており、開発行為の申請をして、自社の山から削り取った砕石を埋め戻し用に使っています。
砂利を取り終わった畑は最後に取り除いていた表土を元に戻してならし、翌年から作付けに使われます。
土を大きく動かしているので、最初の年は養分の偏りなどで収量が不安定になることが多いと言われています。
砂利取りは、畑から砂利が無くなり、砂利の販売収入もあること、業者も砂利が購入できることから両者にメリットがあります。
たかが砂利かと思われますが、コンクリートに混ぜられ建築に使われたり、道路のアスファルトに混ぜられたりして、道路の基盤になったり、色々な場面で使われています。
業者も湧別川から直接採取出来れば費用が安く済むのですが、河川を管理している開発局が、砂利を採取することによって流れが変わり堤防に与える影響や、むき出しになった土砂が下流域に流れて漁業へ与える影響などが予想されることから、砂利採取を許可していないのが現状です。
農家にとっては厄介者の砂利ですが、建設業界では必要不可欠な資材になっているところが面白いと思います。